19世紀から今日まで、私たちは様々な革新に触れてきた。
蒸気機関車、電球、ハーバー・ボッシュ法、自動車、インターネット…最近ではiPod,iPad,iPhoneが最も影響を与えた革新として人々の記憶に残っているのではなかろうか。
私たちは革新を生み出す人々に狂信し、誰しもが想像し得なかった未来に希望を見いだし続けてきた。
多くの革新は常に経済が発展した国から生み出される。この常識に疑いを示す人は少ないだろう。
僕たちも実際はそう考えている。
しかし、その裏側で生産性を高める為に有限な自然資源が無計画なまま使われ続け、有害物質が自然に壊滅的な被害を与える。また、革新を享受できない途上国の人々の生活は常に脅かされ、国内外で格差が生じる。
“人間中心の経済学”の著者でもあるE.F.シューマッハーはこのような行き過ぎた工業化社会に継承を鳴らし、
オルタナティブな革新を数十年も前に提唱していた。
「現代技術は、人間が楽しんでする仕事、頭と手を使っての創造的で有益な仕事を奪い、代わりにみんなが嫌がるこまぎれの仕事をたくさん作り出したといってよい。」
「ガンジーが語ったように、世界中の貧しい人たちを救うのは、大量生産ではなく、大衆による生産である。(中略)大衆による生産の技術は、現代の知識、経験の最良のものを活用し、分散化を促進し、エコロジーの法則にそむかず、稀少な資源を乱費せず、人間を機械に奉仕させるのではなく、人間に役立つように作られている。(中略)だれもが使え、金持ちや権力者のためだけの技術ではないのである。」
「科学・技術の方法や道具は、1:安くてほとんどだれでも手に入れられ、2:小さな規模で応用でき、3:人間の創造力を発揮させるような、ものでなくてはならない」
シューマッハ『スモール・イズ・ビューティフル』講談社学術文庫より
仮にこの3つの引用を軸とした時、何をもって革新とするかの評価軸は変わる。
革新はいかに、労働者に生産の喜びと主体性を与え、自然環境に害を与えず、過度に権力や富が一つに集中しない結果を生み出せるか。また、個別具体のニーズや社会的な課題を解決するサステナブルな仕組みを構築できるか。この革新に対する新たな評価軸なら、世界を変える革新が途上国からも生まれうる。そう考え始めるようになったわけだ。
この仮説をもって僕は旅をし、その中で2つの光景を目の当たりにした。
そして、スクリーンの中でアニルと出会い、迷うことなく、アポもなく、インドに飛びオフィスを訪れた。
インドやベトナム、マレーシアには16万を超える革新の種が草の根レベルから発掘されている。
驚くべき事に、そういった種のいくつかは既にシューマッハが求めた破壊的な動きを逆転させる発明となって、
地域参加型の新たな経済モデルの要として機能し始めているのだ。
グラスルーツから創造された革新が世界を変える。
そう遠くはない未来に、世界にそんな日が訪れるのかもしれない。
そして、その未来を渇望しながらひたすらに待つという事が、日本に住む僕たちにとって最も賢い選択なのかもしれない。しかしながら、誰かが動かなければ、その未来は永遠に訪れない。その未来の欠片を見てしまい、知ってしまった僕たちがそれを運命と捉えるのは大げさかもしれないが、託されたたった一つの選択肢ではなかろうか。
経済的に貧困かもしれない途上国の人々が、世界をより良くする想像力と行動力がある事を世界に証明できたら、
これまで他人任せにしてきた人々でさえも“自分にも世界は変えられる”そう信じさせることができるはずだ。
そして、その証明はグラスルーツから始まる分散的なモノづくりや経済モデルの実証にも繋がるはずだ。
さらには、貧困や途上国といった存在に対する新たな認識を世界が持ち始める。
そんな未来を実現する事にも繋がるはずだ。
僕たちはこのプロジェクトに自分たちの未来を託す気持ちで望むつもりである。
スリランカにて
2012年4月 本村拓人
グラスルーツイノベーター。 草の根から誕生した、様々な”革新”を生み出す発明家のことである。この活動の中心にくるものは、人々が持つ自らを進化させようと未来を創造することそのものである。
彼らは生活環境の中から発明に必要な素材を見つけ、道具を作り、
完成した試作品を自らがユーザーとなり評価し、改善を加えていく。
彼らは様々な制約を時間を掛けて乗り超え、ついには自分達と同じような社会的弱者でさえも購入可能な製品や流通を構築してしまう。結果、『新たな自由』を勝ち取るのだ。
いつしか彼らが生み出した小さな産業が、大きな経済発展を遂げるアジア各国から、世界を根底から変えていく可能性があることを、誰が否定できるだろうか。
Design for Freedom(自由のためのデザイン)は、現地にいるグラスルーツイノベーターの発明・デザインを集め(Scout)、各国に意義を理解させ(Share)、アウトプットを通して世界中を啓蒙する(Publish)ことを通して、世界が変化するスピードを上げることを目的としている。
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自動圧縮式スプレー
二輪自動車用エアーポンプ
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ハンデキャップ向け自動車
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バイオマス発電機
Art Director
太刀川 英輔(NOSIGNER)
Photographer/Writer
NUMA
Movie Director
並木 大典(tetol creative)
WEB Designer
兵庫 濃(TONARI Co.Ltd.)
WEB Engineer
土屋 和久(TONARI Co.Ltd.)
片山 大地(Granma Inc.)
Graphic Designer
中家 寿之(NOSIGNER)